傀儡の恋
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いつもようにデーター整理をしようとしたときだ。
「お前、悪いがマルキオ師のところに行ってきてくれ。できるだけ早く」
いきなりバルトフェルドがこんなセリフを口にしてくれた。
「……何を言っている?」
マルキオは今、島にいる。そんなところに自分がのこのこいけるわけがないだろう。ラウは言外にそう告げた。
「俺としても不本意だがな。他に方法がない」
バルトフェルドは深いため息とともに言葉を返してくる。
「荒事になれている人間があそこにはいないからな」
それがただの戦闘ではないことは聞かなくても想像がつく。
「対人戦ができる人間が他にいればいいんだがな」
場所が場所だけにうかつな人間は近づけたくない。バルトフェルドはさらにそう続けた。
「なら、ますます他の人間を探すべきでは?」
「時間がないんだよ。だから、妥協案だ」
ラウの提案をあれはあっさりと切り捨てる。
「お前、キラのこと好きだろう?」
さらに彼はこんなセリフを投げつけてくれた。
「……好きか嫌いかと聞かれれば、好きですね。この前会ったとき、よくしてもらえましたから」
それ以上ではない、とあえて宣言しておく。この男に自分の本音を知られるのはまずいと判断してのことだ。
「そういうことにしておいてやろう」
にやりと笑うとバルトフェルドはこう言う。
「プラントに行ったカガリ達が行方不明だ。ご丁寧に議長殿の居場所もわからんと言う」
だが、彼はすぐに真顔に戻ると情報を口にした。
「襲撃されたようだな」
誰に、というのはまだバルトフェルドにも掴めていないのだろう。だが、この短時間で襲撃という事実を掴んだだけでも目の前の男の有能さがわかるというものだ。
「俺はさらに情報を集めないといけない。だが、襲撃者があいつらであれば、これを機にキラ達も狙うだろう」
マルキオとカガリ。
そのどちらがかけてもあの小さな楽園は崩壊しかねない。
まさに今はその一歩手前なのだ。
「お前が何者か。信用していい物か。本音を言えば今でも迷っている。だが、今はお前に頼むしかなさそうだからな」
不本意だが、と思い切り顔に描きながらバルトフェルドは言葉を重ねる。
「キラは確かに強い。だが、あいつに対人戦は無理だ」
それには同意だ。
あの戦いの中──特にフリーダムに乗ってからの彼が殺したのは自分だけだ。それも明確な殺意の果てにだ。
それもまたラウにとっては喜ばしいといえることかもしれない。
キラが自分を忘れることはない。
自分という存在が彼の中に根付いている。
それはしっかりと確認させてもらったし、と心の中だけで付け加えた。
もちろん、それらは顔に出すことはない。
「確かに……彼には無理でしょうね」
代わりにこう言った。
バルトフェルドも自分がキラと接触したことは知っているはず。だからこの言葉を不審に思うことはないはずだ。
「できたとしても、もうあいつの手を汚させたくないしな」
それがキラの精神状態をおもんばかってのセリフだと言うことは確認しなくてもわかる。
「お前のことはまだ疑っているがな。それでも、子供達を見捨てることはないだろう、と言う結論になった」
それはマルキオの判断だろうか。
「そういうわけで、あの後、マルキオ師に引き抜かれたことになっている。適当に話を合わせておけ」
「つまり、拒否権はないと?」
「正解」
にやりと笑うバルトフェルドにため息しかでなかった。